CMSの導入は単なるツール選定ではなく、社内の業務フローや情報管理体制に直結する重要なプロジェクトです。導入後に「こんなはずでは…」とならないために、事前に整理すべき社内調整項目と要件定義のポイントを、チェックリスト形式で解説します。各項目に対して、なぜそれが重要なのか、どのようなリスクがあるのかを理解しながら準備を進めることが、導入の成否を左右します。

1. 社内体制・目的の確認

CMSを導入する前に、まずは「なぜ導入するのか」という目的と、運用の主体が誰であるかを明確にすることが欠かせません。目的が曖昧なまま進めると、プロジェクトの途中で混乱を招き、システム選定や設計にも支障が出ます。

1-1. CMS導入の目的は明確か?

  • 情報発信の効率化か、マーケティング活用か、DX推進か?
  • 関係部署で目的認識は共有されているか?

CMS導入の目的が部門間でズレていると、導入後の評価基準もバラバラになります。最初の段階で「何のために使うのか」「成功とはどういう状態か」を明文化しておくことが重要です。

1-2. 担当者・運用体制は決まっているか?

  • 導入から運用までを担当するメンバーが明確になっているか?
  • 更新作業は誰が、どのくらいの頻度で行う想定か?

運用フェーズで属人化や手詰まりが起こることを避けるためにも、更新責任者や運用体制をあらかじめ定めておきましょう。小規模チームでも、役割分担が整理されていればスムーズな運用が可能です。

2. コンテンツとワークフローの把握

CMSはコンテンツ管理の仕組みですから、「何を、どう管理するか」が分かっていないと、適切な設定やテンプレート設計ができません。まずは現状の棚卸しから始めましょう。

2-1. 既存コンテンツの棚卸しは済んでいるか?

  • どのようなコンテンツが存在しており、移行が必要か?
  • ファイルやページ単位で現状を整理しているか?

移行対象が曖昧なままCMS導入を進めると、公開停止できないページやリンク切れが大量に発生する可能性があります。見落としを防ぐためにも、一覧表などで整理しましょう。

2-2. 更新フローに課題はないか?

  • 承認フローが煩雑ではないか?
  • 複数拠点や部門での更新がある場合、その連携は整理されているか?

現在の運用にどんな課題があるのかを把握することで、新CMSに求める機能要件が明確になります。とくに承認や校閲フローが属人的になっている場合は要注意です。

3. 要件定義に必要な確認事項

CMS導入時の要件定義は、後戻りできない大切な工程です。後から「この機能が足りない」と気づいても、大きな修正やコスト増につながります。ここでは、特に見落とされやすい要件を中心に確認していきましょう。

3-1. CMSで管理したい情報の種類と構造は?

  • ページ、記事、資料、動画、フォーム、FAQなど、どのようなタイプか?
  • 検索性や絞り込みに必要な項目(タグやカテゴリ)は何か?

管理対象のコンテンツタイプや構造を定めることで、CMSで使うテンプレートや入力項目が明確になります。情報構造を定義することは、ユーザーにとっての「探しやすさ」を左右する重要な設計です。

3-2. デザインやテンプレートの自由度は必要か?

  • ブランディング維持の観点からテンプレートの自由度を求めるか?
  • 複数サイト・多言語対応などのニーズはあるか?

あらかじめテンプレートの自由度を決めておくことで、外注・内製の方針やCMS選定にも影響します。自由度を重視するなら、編集画面やコードへのアクセス性も確認しておくべきです。

3-3. 外部連携・ログ収集などの要件は?

  • 会員管理、メール配信、CRM、MAとの連携は必要か?
  • アクセスログや行動データの取得・分析要件はあるか?

マーケティング活用を見据えるなら、外部ツールとの連携性やAPIの柔軟性もCMS選定の大きなポイントとなります。分析を行いたい場合は、どの粒度までデータが必要かも明確にしておきましょう。

4. セキュリティ・運用に関する社内基準

CMSの選定では、機能や操作性だけでなく、セキュリティや運用保守の体制も無視できません。とくに情報を扱う企業では、社内基準との整合が問われます。

4-1. 社内のセキュリティ基準にCMSは適合するか?

  • サーバの設置場所、ログ管理、SSL、脆弱性対策の基準は?

クラウド型CMSを選ぶ場合でも、自社のセキュリティポリシーや外部監査の要件と合致しているかを確認しましょう。必要であれば、ベンダーに提出を求めるべき文書も事前に整理しておくとスムーズです。

4-2. 権限管理と監査ログは必要か?

  • 更新履歴や誰が何を変更したかのログは必要か?
  • 管理者・編集者・閲覧者の権限設定はどの程度細かく必要か?

CMSの運用において「誰が何をしたか」を記録することは、トラブル対応やガバナンスの観点からも重要です。最低限の監査ログは多くの企業で求められる要件です。

5. まとめ

CMS導入は「とりあえず便利そうだから」という軽い動機で始めると、後で大きな見落としが発覚するリスクがあります。特に大規模サイトや複数部門が関与するプロジェクトでは、導入前の準備がその後の運用コストを大きく左右します。

今回のチェックリストをベースに、自社の現状や課題、期待する効果を丁寧に洗い出し、関係者間で認識を揃えることが、CMS導入の成功につながります。