1. スコアリングの基本
BtoBマーケティングにおいて、リード(見込み顧客)がどの程度「購入意欲」や「関心度」を持っているかを把握することは極めて重要です。そこで活用されるのが「スコアリング」です。スコアリングは、顧客の属性や行動に点数を付与し、優先度やアプローチ方法を可視化する仕組みです。
1-1. 属性スコアと行動スコア
スコアリングは大きく分けて「属性スコア」と「行動スコア」の2種類があります。
- 属性スコア:業種、役職、企業規模など、顧客の基本的なプロフィールに基づく評価。
- 行動スコア:Webサイトの閲覧履歴、資料ダウンロード、イベント参加、メール開封など実際の行動に基づく評価。
これらを組み合わせることで「自社にとって有望なリード」を可視化できます。たとえば、医療業界の大手病院に所属する部長クラスの人物(属性スコアが高い)が、製品ページを複数回訪問している(行動スコアも高い)場合は、ホットリードとして営業に引き渡す優先度が高くなります。
1-2. スコアリング導入のポイント
スコアリングを効果的に活用するためには以下の点に注意が必要です:
- 自社にとっての「優良リード像」を定義する:業種や規模、意思決定権の有無などを整理する。
- スコア基準を関係者で合意する:営業とマーケで認識を揃え、営業が納得できるリード定義を作る。
- 定期的に基準を見直す:市場環境や製品戦略の変化に合わせて調整する。
背景:BtoB特有の制約とスコアリングの難しさ
BtoBでは、購買プロセスが長期化しやすく、意思決定者も複数にわたります。そのためスコアリングも単純ではありません。例えば、担当者は頻繁に資料を閲覧しているが、決裁権を持つ上層部は動いていないケースがあります。この場合、行動スコアだけを重視すると過大評価につながります。逆に属性スコアだけでは「今、動いている企業」を見逃してしまうリスクもあります。両者をバランスよく組み合わせることが欠かせません。
2. シナリオ設計の基本
スコアリングで「誰にアプローチするか」を明確にしたら、次は「どうアプローチするか」を決めるのがシナリオ設計です。シナリオとは、リードが顧客へと育っていくプロセスを支援するための一連のコミュニケーション設計です。
2-1. シナリオ設計のステップ
- リードのセグメント分け:スコアに基づいて「興味が薄い層」「比較検討層」「ホットリード層」に分類する。
- シナリオのゴールを設定:商談化、ウェビナー参加、資料請求など、リードの状態に応じたゴールを設定する。
- アクション設計:メール配信、ホワイトペーパー提供、セミナー招待、パーソナライズされたWebコンテンツなどを組み合わせる。
- タイミングの最適化:リードの行動に合わせて、適切なタイミングで接触する。
2-2. CMSとMAを活用したシナリオ例
CMSとMAを連携させることで、より精緻なシナリオ運用が可能になります。例えば:
- CMSのログから「製品ページを3回以上訪問した」ユーザーをMAで検知し、自動的に関連資料のダウンロード案内を送付する。
- CMSで公開したセミナーレポートを読んだユーザーに、MAを通じて次回セミナーの案内を自動配信する。
- CMSに蓄積された職種タグ(例:医師、研究者、購買担当)をもとに、メールの出し分けや表示コンテンツを切り替える。
これにより、リードは「自分に合った情報がタイムリーに届く」と感じ、信頼醸成につながります。
よくある落とし穴と改善のヒント
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落とし穴1:シナリオが複雑すぎる初期段階から複雑なシナリオを設計すると、運用が追いつかず形骸化します。まずはシンプルなフローから始め、データや実績をもとに改善していくことが重要です。
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落とし穴2:営業との連携不足マーケ部門だけでシナリオを設計すると、営業が必要とするタイミングとズレが生じます。営業部門と定例会を設け、フィードバックを反映させる仕組みを構築しましょう。
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落とし穴3:CMSの活用不足CMSで取得できるログやタグを活用せず、メール配信に偏ってしまうケースも見られます。Webコンテンツの出し分けやパーソナライズ表示を取り入れることで、より自然なナーチャリングが可能になります。
チェックリスト:スコアリングとシナリオ設計の準備
- [ ] 優良リード像(属性・役職・規模など)を定義しているか?
- [ ] 行動スコアの基準(閲覧回数、ダウンロード数など)を数値で設定しているか?
- [ ] CMSの行動ログをMAに連携できる設計になっているか?
- [ ] 営業部門と合意した「リード引き渡し基準」があるか?
- [ ] 定期的にスコアリング基準やシナリオを見直すプロセスを持っているか?
ベストプラクティス集
- 属性スコアと行動スコアを組み合わせて判断する。
- シナリオは小さく始め、成功パターンを拡張していく。
- CMSでコンテンツを体系化し、MAと連携して活用する。
- 営業からのフィードバックを必ず取り込み、シナリオを改善する。
- 数値KPIを常にモニタリングし、改善サイクルを回す。
運用フェーズ別の工夫
- 導入初期:基準をシンプルに設定し、まずはスコアリングが機能するか検証する。
- 安定運用期:スコア基準やシナリオを細分化し、より精度を高める。
- 改善期:蓄積データを分析し、新しいセグメントや施策を取り入れる。
数値指標やKPIの例
- メール開封率:20〜30%以上
- コンテンツダウンロード率:5〜10%
- リードスコアが一定値を超えたリードの商談化率:15〜20%
- シナリオ完了率(設計したゴールに到達した割合):30%以上
役割ごとの視点
- マーケ部門:リード獲得から育成までのプロセスを設計し、コンテンツやシナリオを運用する。
- 営業部門:高スコアのリードを優先的にアプローチし、フィードバックをマーケに返す。
- 経営層:KPIをモニタリングし、投資対効果や組織全体の連携状況を把握する。
成功パターンと失敗パターンの比較
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成功パターン・属性と行動を組み合わせたバランスの良いスコアリング・営業との連携を前提に設計されたシナリオ・CMSとMAを統合し、ユーザーに合わせたパーソナライズ配信を実施→ チェックリスト項目をすべて実行できている状態
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失敗パターン・スコア基準が曖昧で営業が信頼できない・シナリオが複雑すぎて運用が破綻・メール配信中心でWebやCMSのデータを活用できていない→ チェックリスト項目が欠落している状態
スコアリングとシナリオ設計は、単独では成果を生みません。営業とマーケの連携を前提に、CMSとMAのデータを統合的に活用することで、初めてリードナーチャリングが効果的に機能します。BtoB特有の長い検討プロセスにおいて、適切なタイミングで適切な情報を届ける仕組みを作ることが、最終的な成果につながるのです。