1. CMS構築フェーズで押さえるべき4つのステップ

CMS構築を成功させるには、次の4つの工程を順序立てて進めることが重要です。

  1. 情報設計・CMSテンプレート設計
    サイト全体の構造とページの雛形を定義する段階

  2. CMS設定・権限設計/承認フローの構築
    誰が何をどこまでできるかを明確にする段階

  3. コンテンツ移行(CMSデータ移行)
    既存サイトのデータを新CMSへ移す段階

  4. リリース前後の確認・運用立ち上げ
    本番公開に向けた最終チェックと初動体制の整備

要件定義フェーズでは「何を作るか」を決めますが、CMS構築フェーズでは「どう作るか」を実際に手を動かしながら判断していきます。この違いが重要で、準備段階で定義した要件をどれだけ正確にCMS機能として落とし込めるかが、プロジェクト全体の品質を左右するのです。

要点:CMS構築は「手を動かしながら判断する」フェーズ。要件定義の精度がここで試される。

それでは、最初のステップである情報設計とCMSテンプレート設計から、具体的に見ていきましょう。

2. 情報設計とCMSテンプレート設計(ここが品質の土台)

CMS構築フェーズで最初に着手すべきは、サイト全体の情報設計(IA:Information Architecture)とテンプレート設計です。ここが甘いと、後続の作業すべてにブレが生じ、手戻りの原因になります。経験上、この段階でしっかり固めておくことが、後の工数削減に直結します。

2-1. コンテンツタイプの定義(データ構造の設計)

まず取り組むべきは、サイト内のコンテンツを種類ごとに分類し、それぞれに必要なデータ項目や入出力形式を明確にすることです。これは「コンテンツタイプの定義」と呼ばれる作業で、CMS構築の根幹となります。

代表的なコンテンツタイプの例:

  • ニュース・お知らせ
  • 導入事例・実績紹介
  • 製品・サービス情報
  • ブログ記事・コラム
  • イベント・セミナー情報
  • よくある質問(FAQ)

各コンテンツタイプについて、次の要素を整理しておきます。

  • 必須項目:タイトル、本文、公開日、カテゴリなど(入力しないと公開できない項目)
  • 任意項目:サブタイトル、タグ、補足説明、関連リンクなど(あると便利な項目)
  • アセット:サムネイル画像、PDF資料、動画などのメディアファイル
  • メタ情報:検索時の絞り込み条件や表示順の制御に使う項目(SEO対策にも影響)

この整理は後述するCMSテンプレート設計の基盤になるため、CMS構築の最初期にしっかり固めておくことが重要です。ここで曖昧なまま進めると、後から「あの項目が足りない」「この入力欄は不要だった」といった手戻りが必ず発生します。

2-2. CMSテンプレート設計で守るべき3つの原則

テンプレート設計では、次の3点を意識することで、運用しやすく拡張性のあるCMS構築が実現できます。

① 再利用性を最優先に考える
特定の1ページだけのために専用テンプレートを作るのは、後々の運用負荷が高まるため避けるべきです。基本は「一覧ページ」と「詳細ページ」の2層構造で設計し、複数のコンテンツタイプで共通利用できる形を目指しましょう。

例えば、「ニュース一覧」と「事例一覧」は別々のテンプレートを作らなくても、共通の「記事一覧テンプレート」として設計できるケースが多いものです。

② 入力者が迷わない設計を心がける
項目の入力形式(テキストボックス、画像アップロード、プルダウン選択など)を明確に設定します。入力方法がバラバラだと、運用担当者の負担が増えるだけでなく、入力ミスも発生しやすくなります。

実務では「この項目、どう入力すればいいんですか?」という質問が頻発するCMSほど、運用が回らなくなる傾向があります。

③ サイト全体の一貫性を保つ仕組みを作る
ヘッダーやフッター、CTAボタン、パンくずリスト、サイドメニューなどの共通要素は、必ず一元管理できる設計にします。これにより、変更が必要になった際に全ページへ自動反映できる体制が整い、サイトリニューアル後の運用改善もスムーズになります。

要点:CMSテンプレート設計の良し悪しは、今後の運用コストを大きく左右する。初期の丁寧な設計が長期的な効率化につながる。

次の章では、この設計を実際のCMS機能として実装していく方法を見ていきます。特に権限設計と承認フローは、運用の成否を分ける重要ポイントです。

3. CMS設定・権限設計/承認フローの実装

情報設計とテンプレート設計が固まったら、次は要件定義で決めた運用ルールを、実際のCMS機能として実装していきます。ここで手を抜くと、「誰が何をできるのか分からない」「承認が進まない」といった運用トラブルに直結します。

3-1. 権限設計のバランス感覚

権限設計は、細かくしすぎると運用が煩雑になり、大雑把すぎると誤操作や情報漏洩のリスクが高まります。実務上は次のような4階層での設定が一般的で、多くのCMS導入現場で実績のある構成です。

  • 管理者(Admin):CMS全体の設定変更やユーザー管理が可能(システム全体を把握する立場)
  • 編集者(Editor):コンテンツの作成・編集・公開が可能(実際のコンテンツ管理を担う)
  • ライター(Author):コンテンツの下書き作成のみ可能(記事執筆を担当)
  • 閲覧者(Viewer):コンテンツの確認のみ可能、編集権限なし(確認や承認のみ行う)

組織の規模や体制に応じて調整しつつ、「実際の運用フロー」を先にイメージしてから権限ロールを決めることが成功のポイントです。

ここで注意したいのは、管理者権限を持つ人が多すぎると、誰が何を変更したのか追跡しづらくなり、ガバナンスが効きにくくなる点です。「念のため管理者にしておこう」という安易な判断が、後々のセキュリティリスクにつながります。

また、ライター権限を広く付与しすぎると、未承認のコンテンツが大量に滞留し、管理が煩雑になります。代理承認の仕組みを設ける場合も、本来の承認者が不在時にのみ限定するなど、明確なルールを定めておきましょう。権限設計の甘さは、運用開始後に必ず問題として表面化します。

3-2. 承認フローの設計と現場でよくある落とし穴

承認フローは、理想論ではなく「現場の実態」に基づいて設計する必要があります。きれいな組織図通りに設計しても、実際の業務フローと合わなければ機能しません。

よく見られる承認フロー設定例:

  • 一次承認:コンテンツ担当者(内容の正確性をチェック)
  • 二次承認:部門責任者(部長・課長など、方針との整合性を確認)
  • 最終承認・公開:Web運用チーム(最終的な公開判断)

ここで特に注意すべきは、承認者が複数部署にまたがる場合です。承認が滞る「ボトルネック構造」に陥りやすく、公開スピードが著しく低下するケースが本当に多いのです。

実務でよく見るのは、「最も多忙な承認者に合わせたフロー」になってしまい、すべてのコンテンツが1人の承認待ちで止まってしまうパターンです。設計段階で「この人が1週間不在だったらどうなるか?」というシミュレーションをしておくことをお勧めします。

要点:権限設計と承認フローは、運用開始後の修正が難しい。現場の実態を踏まえた設計が必須。

権限設計と承認フローの実装が完了したら、いよいよCMS構築で最も工数のかかるコンテンツ移行フェーズに入ります。ここからは特に計画性が求められる工程です。

4. コンテンツ移行フェーズ(CMS構築で最も時間がかかる領域)

CMSプロジェクトで最も時間を要するのが、既存サイトから新CMSへのCMSデータ移行作業です。旧サイトの管理状態が整っていない場合、この工程だけで1〜2か月を要することも珍しくありません。サイトリニューアルのスケジュールが遅れる最大の原因も、多くの場合このコンテンツ移行フェーズです。

4-1. コンテンツ移行計画の立て方

CMS移行作業は、次の手順で進めると抜け漏れを防ぎやすくなります。この順序を守ることで、後から「あのページが移行されていない」といったトラブルを回避できます。

  1. 旧サイトの全URL一覧を取得する(ツールを使って機械的に抽出)
  2. 各ページを「移行する」「移行しない(削除)」に分類する
  3. 移行対象ページを適切なコンテンツタイプにマッピングする
  4. 設計済みのCMSテンプレートへコンテンツを流し込む
  5. レイアウト崩れやリンク切れがないか確認する
  6. 本番環境で再度チェックする

特に重要なのが、301リダイレクト対応表の作成です。サイトリニューアルでURL構造が変わる場合、旧URLから新URLへの転送設定を正確に行わないと、SEO評価が大きく損なわれます。Googleなどの検索エンジンは、301リダイレクトが正しく設定されていれば評価を引き継いでくれますが、設定ミスがあると検索順位が大きく下がることもあります。

この301リダイレクト作業は早めに着手し、十分なテスト期間を確保しましょう。リリース直前に慌てて作業すると、必ずミスが発生します。

4-2. アセット(画像・PDF)のCMS移行

画像やPDFといったアセットファイルの移行では、次のような問題がよく発生します。

  • ファイル名の命名規則がバラバラで管理しにくい
  • 同名ファイルが複数のフォルダに散在している
  • どのファイルがどのページで使われているか不明
  • PDFへのリンクが外部サーバー依存になっている

これらは放置すると、リリース後に「あの資料が見つからない」「画像が表示されない」といったトラブルが多発します。コンテンツ移行を機に、アセット管理のルールを明確化し、一元管理できる体制を整えることで、今後の運用負荷を大幅に削減できます。

命名規則の例:「YYYYMMDD_カテゴリ_ファイル名.拡張子」のように、日付とカテゴリを含めるだけで、後から探しやすくなります。

4-3. CMSデータ移行の方式選択

移行方法は、サイト規模とデータ構造に応じて次の3パターンから選択します。

  • 手動入力:ページ数が数十程度の小規模サイト向け(確実だが時間がかかる)
  • CSVインポート:データが構造化されている中規模サイト向け(効率的だがデータ整形が必要)
  • 移行プログラム開発:数百ページ以上の大規模サイト向け(開発コストはかかるが大量処理に最適)

どの方式を採用するかは、サイトの規模だけでなく、データの整合性や移行後のメンテナンス性、そして予算と期間も考慮して判断します。中途半端な規模(100〜300ページ程度)の場合、手動とCSVインポートの併用が現実的なケースもあります。

要点:コンテンツ移行は想定以上に時間がかかる。早めの着手と十分な余裕を持ったスケジュールが必須。

CMS移行が完了したら、いよいよサイトリニューアルのリリースに向けた最終段階です。次の章では、公開前後で押さえるべき確認事項を詳しく見ていきます。

5. リリース前後30日間の実施事項(成否を分ける最終フェーズ)

CMS構築フェーズの最終段階では、公開前の入念なチェックと公開後の初動対応が欠かせません。ここでの確認が甘いと、リリース後に致命的な問題が発覚することもあります。

5-1. リリース前に確認すべきポイント

次の項目は、CMS構築の最終チェックリストとして必ず確認しましょう。

  • CMSテンプレートが全ページで正しく反映されているか
  • 権限設定に不備や過不足がないか(特に管理者権限の付与状況)
  • 301リダイレクトが正常に動作するか(全パターンをテスト)
  • メタ情報(タイトル・description・OGP)が適切に設定されているか
  • 画像が適切なサイズ・形式で表示されているか(ページ速度への影響も確認)
  • ステージング環境と本番環境の差異がないか

これらを一つずつチェックリスト化し、複数人で確認することで見落としを防げます。「誰か見てくれているだろう」という思い込みが、リリース後のトラブルにつながります。

5-2. リリース当日の体制整備

サイトリニューアル公開当日は、次の点を事前に明確にしておきましょう。

  • 各担当者の役割分担(誰がどのチェックを担当するか、責任者は誰か)
  • 旧サイトの停止タイミングまたは新旧サイトの切り替え手順
  • 問題発生時のロールバック(切り戻し)手順と判断基準

当日の混乱を避けるため、役割と手順は必ず文書化し、関係者全員で事前に共有しておくことが重要です。「当日になれば何とかなる」という楽観的な考えは禁物です。

5-3. 公開後30日間のモニタリングと運用改善

本番公開直後はトラブルが発生しやすい期間です。次の項目を定期的に確認し、必要に応じて迅速に対応しましょう。

  • 404エラーの発生状況と原因特定(リダイレクト漏れがないか)
  • 想定を超えるアクセス負荷やサーバー応答速度(パフォーマンス問題の早期発見)
  • 追加修正が必要な箇所の優先順位づけ
  • 運用チームの習熟度と追加サポートの必要性

加えて、検索流入やユーザー行動のデータを確認し、メタ情報や内部リンクの微調整を行うことも重要です。Googleアナリティクスやサーチコンソールのデータを見ながら、サイトリニューアルの効果を検証し、早期に改善点を洗い出します。

公開後30日間を「運用チームの伴走支援期間」と位置づけ、問題の早期発見と対応に注力することで、安定した運用改善へとスムーズに移行できます。

要点:リリース後30日間は最も重要な期間。早期発見・早期対応が安定運用への鍵。

ここまでがCMS構築の一連の流れですが、実務では様々な失敗パターンも存在します。次の章で、よくある失敗例とその回避策を確認しておきましょう。

6. よくある失敗パターンと回避策(実務で見た典型例)

CMS構築・コンテンツ移行フェーズで起こりがちな失敗例を、実務経験からいくつか紹介します。これらは決して珍しいケースではなく、むしろ「あるある」な失敗パターンです。

CMSテンプレートの自由度が高すぎる
カスタマイズ性を重視しすぎると、ページごとにデザインがバラバラになり、サイト全体の統一感が損なわれます。「自由に作れる」ことは一見便利に思えますが、運用が回り始めると必ず問題になります。適度な制約を設けることで、一貫性のあるサイトを維持できます。

コンテンツ棚卸しの不徹底
移行対象の選定が甘く、不要なページや重複コンテンツが新サイトに残ってしまうケースです。「とりあえず全部移行しよう」という判断が、後々のコンテンツ管理を複雑にします。コンテンツ移行前に十分な棚卸し作業を行い、本当に必要なページだけを移行しましょう。

URL設計の後回し
URL構造を後から変更しようとすると、リダイレクト設定の複雑化やSEO評価の低下につながります。サイトリニューアルでは、URL設計を設計の初期段階で確定させることが重要です。これは後から変更できない要素の一つです。

テスト工程の軽視
スケジュールの遅れからテスト期間を削ると、本番公開後にレイアウト崩れやリンク切れが多発します。「テストは後回しでいい」という判断は、ほぼ確実にトラブルにつながります。テスト期間は必ず確保しましょう。

CMS構築フェーズでの失敗は「後から直せばいい」と軽視されがちですが、そのほとんどが長期的な運用コスト増大として組織に跳ね返ってきます。初期の丁寧な設計と実装が、結果的に最も効率的なのです。

要点:CMS構築の失敗は、すべて運用コストとして跳ね返ってくる。初期の丁寧な作業が最大の効率化。

7. まとめ|CMS導入から運用改善までの一貫した流れ

CMS導入プロジェクトの成功には、準備フェーズとCMS構築フェーズが密接に連携していることが不可欠です。

この2つの工程を一貫した流れとして実行することで、「実際に使われ続けるCMS」を実現できます。CMS導入は単なるシステム導入ではなく、組織の情報発信基盤を作る重要なプロジェクトです。

しかし、CMSはサイトリニューアルして終わりではありません。運用開始後の継続的な運用改善、効果測定のためのKPI設計、コンテンツ品質の維持など、運用フェーズで取り組むべき課題は数多くあります。むしろ、ここからが本当のスタートとも言えます。

本シリーズを通じて、CMS導入〜構築〜運用改善までを一気通貫で理解できるようになります。次回は、運用開始後の継続的改善や効果測定の手法、そしてPDCAサイクルの回し方について解説します。CMS構築が完了したら、ぜひそちらも参考にして、CMSの効果を最大化してください。

構築フェーズを乗り越えれば、あなたの組織のWebサイトは、単なる情報掲載場所から、戦略的なマーケティング資産へと進化します。

記事情報
最終更新日:2025年12月5日
対象読者:CMS導入プロジェクト担当者、企業のWeb/マーケティング担当者、情報システム部門、制作パートナー
※本記事の内容は公開時点の情報をもとにしています。構築フェーズの工数や進め方は、サイト規模・体制・CMSの仕様によって大きく異なる場合があります。テンプレート設計や移行方式、承認フローなどはプロジェクトごとに最適解が異なるため、必ず自社の運用要件や最新のCMS仕様を踏まえて検討してください。