作るのは、もういいかなと思った
この1か月半で、機能リファレンスを127本、FAQを117問、用途別のQA集を61問、その出口として用途別ページを16本、最後にカタログ。かなりの量を作りました。(棚卸しの表は前回の総括にあります)
AIを使えば、まだ作れます。作ろうと思えば、いくらでも増やせそうです。
でも最近、コンテンツを「作ること」自体は、だいたいやったような気がしてきました。
その代わり、妙に気に入っているものがあります。MarkdownとCSVです。AIにはMarkdownで材料を渡す。大量のデータはCSVでCMSへ出し入れする。人間はそれを読んで、判断して、直す。これくらい単純な方が、AIを使うには都合がいい。
そんなことを考えていて、ふと思いました。海外では、AIとCMSをどう考えているんだろう。
調べてみました。そして、少し「あれ?」となりました。
「AIがCMSで書く」の、その先
海外ではすでに、AI-powered CMS、AI-native CMS、Agentic CMSといった言葉が使われています。
最初は、CMSの編集画面にAIのライティング機能を付ける話だと思っていました。文章生成、要約、翻訳、SEO、タグ付け。もちろんそれもあります。
ただ、最近の話はそこから先へ進んでいました。
Kontent.aiという海外のCMSベンダーは、今年8月の記事で、Agentic CMSを「AIが文章を提案するだけでなく、構造化されたコンテンツやワークフローに対して実際に動くCMS」として説明しています。AIが構造化されたコンテンツを読み、既存の情報を探し、組み合わせ、更新し、別の用途へ展開する。
AIをCMSの中に置く、というより、AIが扱えるコンテンツの基盤をCMS側に用意する。そういう方向です。
ここで、自分が最近便利だと思っていたMarkdownとCSVのことを、少し思い出しました。
「CMSは要らないのでは」を試した会社があった
さらに面白い実験を見つけました。
CMSの導入を20年やってきたKonabosという会社が、2026年2月のウェビナーで「AIがここまでWebサイトを作れるなら、そもそもCMSは必要なのか」を実際に試しています。
自社のブランド情報とコーディング規約を渡し、AIに3日でCMSそのものを作らせ、そのCMSに自社サイトのトップページを1分弱で生成させる。ページ構造もコンテンツモデルもAIが作り、出力はJSONで構造化されていた。既存サイトを作り直す前提なら、新規構築の作業の2〜3割はこれで済む、というのが本人の感覚だそうです。
ところが、企業サイトとして考えると話が変わります。同じ部品を複数のページで共有するのが難しい。権限は。ワークフローは。履歴は。統制は。
結局彼らは「CMSはまだ必要だ。ただし、ページを作るためではない」というところに戻ってきます。CMSはコンテンツを構造化して保持し、統制するための基盤になり、AIがその上で「作る」側になる、という整理です。
ひとつ、余談があります。Konabosは以前、自社サイトをMarkdownファイルで運用していたそうです。編集画面はあるが、書き込む先はMarkdown。仕組みとしてはうまく動いていた。ところが社内の人から「ここ直せる?」「これ足せない?」「やっておいてくれる?」と頼まれるようになり、結局2人のエンジニアが全部の編集を引き受ける羽目になった。人にMarkdownを書かせるのは無理だった、ということで、CMSに戻したそうです。
私は今、逆向きに歩いています。CMSにいて、Markdownへ寄っていく。ただし、人に書かせるためではありません。AIと私の間の受け渡し用で、人は読んで直すだけです。そこは後で書きます。
Single Source of Truth
この手の議論の周りで、何度も出てくる言葉がありました。
Single Source of Truth。略してSSOT。
大げさな名前です。調べてみると、要するに「正しい情報を一か所に持ち、そこを基準にして再利用する」という話らしい。
へー。
……。
あれ?
それ、この1か月半やっていた
今回作った機能リファレンス127本は、AIに自由に製品説明を書かせたものではありません。
実際に存在する管理画面のキャプチャを材料にして、そこから確認できる客観的な事実だけをAIに抽出させました。それを私が確認して、必要なら修正しています。(台帳だけが生き残る、思っていた世界観)
事実には一つずつ番号を振ってあります。そして、同じ事実を各ページにコピーして持たせるのではなく、各ページからその番号を参照します。FAQの答えに根拠を張ったときも、16本の用途別ページを作ったときも、やったのは新しい文章を書くことではなく、127本のどれを指すかを決めることでした。
つまり、事実そのものは一つです。
それを、機能ページ、FAQ、QA集、用途別ページ、カタログ、そしてAIへの入力から再利用しています。
売り文句を消したときに「同じ答えは、一か所に置く。データベースの設計と同じです」と書きました。しつこく「事実」と「再利用」を言い続けてきたのは、このためでした。
事実は一つ。表現はいくらでも作れる
この構造にしてから、AIとの付き合い方も変わりました。
AIに「writeWiredについて何か書いて」とは頼みません。まず事実を渡す。そこから「この用途ならどう説明するか」を考えさせる。
すると、事実は一つでも、表現はいくらでも作れます。製薬会社向けにもできる。多拠点企業向けにもできる。会員サイトとしても説明できる。カタログにもできる。QA集にもできる。
重要なのは、表現を増やしても、元となる事実まで増えないことです。増えるのは入口だけで、答えは一か所にある。
そして残ったのが、MarkdownとCSVだった
大量に作ってみて、道具はかなり単純なところへ戻ってきました。
一つのコンテンツをAIと人間の間で扱うならMarkdown。大量の構造化データをCMSとやり取りするならCSV。これでかなりのことができます。
JSONも便利です。Konabosの実験でも、出力はJSONでした。機械同士でデータを渡すなら、JSONの方が適しているのでしょう。
ただ、私の場合は途中に人間がいます。読める。直せる。Excelでも扱える。だから今のところ、人間とAIの境界にはMarkdownとCSVくらいがちょうどいいと思っています。
ついでに言うと、Markdownで表現できないものは、コンテンツの側から減らした方がいいのではないか、とも思い始めています。見た目はCMSが担当し、コンテンツには意味だけを持たせる。これは別の回に書きます。
SSOTを作ろうとしていたわけではない
Single Source of Truth。まだ少し恥ずかしい言葉です。
今回調べるまで、これを作ろうと思って作業していたわけではありません。ただ、
- 事実と売り文句を分ける
- 同じ事実を何度も書かない
- 一つの情報を再利用する
- AIには元となる事実を渡す
- 人間が最後に確認できるようにする
ということを繰り返していたら、結果的にかなり似たところへ来ていました。
海外では、AIによってCMSが不要になるというより「AIが作るようになったからこそ、正しい情報を持つ場所としてCMSが重要になる」という議論が出始めています。(CoreMedia、FocusReactive)Konabosの実験も、最終的にはそこへ戻っています。
AI時代のCMSで人がどこに残るか、については前回の総括で一度書きました。言うたびに中身が変わりそうなので、ここでは繰り返しません。ただ、そこで書いたことに、海外から名前がついていた。それだけの話です。
作るより、正しい材料を持つ
AIのおかげで、コンテンツを作ること自体は、ずいぶん簡単になりました。
だから今後重要になるのは、どれだけたくさん作れるか、ではないのかもしれません。何を事実として持つのか。どこに持つのか。どう再利用するのか。AIに何を材料として渡すのか。そして、人間がどこで判断するのか。そちらの方が気になります。
大量にコンテンツを作った結果、いちばん面白いと思っているのがMarkdownとCSVなのは、ちょっと皮肉です。
そしてSingle Source of Truthという大げさな名前を調べてみたら、どうやら、すでに似たことをやっていたようです。
へー。